ホスト・ホステスの給料問題②~ペナルティ等の控除の適法性

今回は,前回に引き続き,
ホステス・ホストの給料問題について,
お話したいと思います。

ホステス・ホストも「労働者」に当たり,
労働基準法により保護されることは,
前回お話したとおりですが,
今回は,ホステス・ホストの給料に関して問題となる,
ペナルティー等の控除の有効性
についてお話致します。

1.売掛金保証

売掛金保証特約とは,
ホステス・ホストが客に掛売りをするときに,
店舗側に対し,当該客の代金債務について連帯保証するとともに,
掛売りをした日から何日以内に集金して支払う,
集金できなければホステス・ホストが負担してお店に支払う,
などとされる特約のことです。

この特約は,店舗側が経営者たる地位を不当に利用して,
本来経営者として負担すべき売掛金の回収不能の危険を
ホステス・ホストに負担させるものであり,
原則的には公序良俗に反するものとして無効であると考えられます。

もっとも,ホステス・ホストが
掛売りをするかどうか,
するとして掛け売りをするお客様を自由に選べたりするなど,
その危険を回避することができる場合には,
例外的に有効とされる場合もあるようです。

2.遅刻,早退,欠席等の罰金規定

これは,例えば,
遅刻や早退,無断欠勤,
特定の強制日の欠勤,パーティ期間中の欠勤等
を理由として,
欠勤等の時間分の保証額(又はその半額)を減額したり,
保証額の何%を減額するといった内容のものです。

これは不就労日分の報酬を支払わないということではなく,
その欠勤等により減給がされるという仕組みのものです。

これらは,出勤の指示違反に対する制裁という意味合いを持ち,
これらの条項に基づく罰金は,
懲戒処分としての減給であると考えられます。

そうなると,
①就業規則にあらかじめ懲戒事由及び手段を定めてあり,また
②その処分に相当性が認められなければ,
適法とはいえません。

また,当該処分が適法であったとしても,
労働基準法91条に反しない限度で有効であるに過ぎず,
月ごとの控除額の総額が月額報酬額の10分の1を超えた場合は
違法といえます。

3.同伴ペナルティー・ノルマ未達成等の罰金規定

同伴ペナルティーとは,
月に何回,顧客を同伴して出勤する義務があり,
これを履行しない場合は保証額を減額するという内容のものであり,
ノルマ未達成のペナルティーとは,
売上げのノルマを未達成の場合には,
保証額を減額するという内容のものです。

この同伴義務やノルマというのも,
上記の欠勤等の罰金規定と同様に,
懲戒処分としての減給
であるという考え方もできます。

そうなると,店舗側とすれば,
上記と同様の制限を受けることになります。

他方で,この点に関しては,
同伴義務を履行しない場合に,
一定のペナルティーを課して賃金を控除するということは,
労務の不履行に対する違約金又は損害賠償の予定をすることを禁じている
労働基準法16条に抵触し,全部無効であるとする考え方もあります。
(東京簡裁平成20年7月8日)

こちらの方が考え方としては,
労働者には有利でありますが,
いずれにしても,
このような名目での控除は違法とされる可能性が高いといえるでしょう。

4.罰金以外の控除等(厚生費・互助会費)

これは,厚生費(化粧品代・薬代・会食代),
互助会費(慶弔費・見舞金・旅行代など)などとして,
1日の報酬額の何%を引くという内容のものです。

賃金は,通貨で,
直接労働者に全額を支払わなければならないのが原則であり
(労働基準法24条1項)
法令又は労働協約に別段の定めがある場合に
一部を引くことが認められるに過ぎません。
なので,上記控除は,
基本的に当該規定に違反することになります。

例外的に,
労働者の自由意思による同意に基づいて
賃金から引く場合には適法と判断されますが,
その同意の有無は慎重に判断すべきです。

裁判例では,同意の有無の判断において,
「化粧品代・薬代・会食代・慶弔費・見舞金・旅行代等の
福利厚生費・互助会費の具体的費目の内訳をみると,
本来会社が負担すべき福利厚生のための費用や
互助的・自主的な積立金としての性格のお金であり,
原告がこれらの費目により実際の恩恵を受けた事実も認められない
ことを併せ考慮すると,原告がこれらの支払義務を認め,
賃金と相殺することについて
原告の自由意思による同意があったと認めるに足りる
合理的な理由は見出し難いといわなければならない。」
などとするものがあります。
(前記東京簡裁平成20年7月8日)

基本的には,ホステス・ホストに特に伝えずに,
店舗側が引いている場合が多いので,
同意があるといえるケースはそう多くないと思われます。

5.まとめ

以上のように,
ホステスやホストの給料から,
さまざまな名目で控除することは,
違法と判断される可能性が高いと考えられます。

違法となれば,本来受け取るはずだった報酬(賃金)の請求が
可能となりますので,
様々な名目で報酬から控除がされている方は,
一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

弁護士 伊倉 吉宣
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伊倉総合法律事務所
〒105-0001 東京都港区虎ノ門3丁目7番5号 虎ノ門Roots21ビル9階
TEL:03-6432-4940
FAX:03-6432-4950
E-mail:ikura@ikura-law.jp
URL:http://www.ikura-law.jp/
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ホスト・ホステスの給料問題①~労働者性

未払い給与の請求,未払い残業代の請求等のために,
弊事務所にご相談に来るお客様の中には,
いわゆるクラブ・キャバクラ・ホストクラブ等の
ホステスやホストの方もいらっしゃいます。

一件華やかに見える世界ではありますが,
元々のアングラな体質に加えて,
昨今の不景気も影響し,
ノルマを果たせない場合のペナルティや,
売掛金の負担など,
極めて厳しい労働環境を強いられる方々が増えております。

そこで,今回は,
ホステス・ホストが法的に「労働者」として,
労働基準法等により保護されるかどうかについて,
お話したいと思います。

まず,以前から業界的によく言われてきたのが,
ホステス・ホストは個人事業主であり,労働者ではない,
ということです。
労働者でなければ労働基準法等は適用されず,
それらの法律によって守ってもらうことはできません。

このようにホステス・ホストが,
個人事業主と言われているのは,
ホステス・ホストが店舖内でお店側と共同し,
または独自の立場でお客様をもてなすという色彩が濃いもので,
個人のホステス・ホストに顧客がついたり,
その売上げに応じて報酬が変わるなどの特徴があるからです。

実際,店舗側から,
「君たちとの契約は委託だから,うちが雇っているわけではない」
と言われているホステス・ホストも多いかと思います。

もっとも,労働基準法上の「労働者」性というのは,
契約書に「委託」等と書かれているからといって労働者ではない,
などとそう単純に決まるものではありません。

判例上,「労働者」性の判断基準とされているのは,
「使用従属性」
というものです。

その判断要素としては以下のようなものが挙げられます。
①仕事の依頼,業務の指示等に対する許諾の自由の有無
②業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
③勤務場所・時間についての指定・管理の有無
④労務提供の代替性の有無
⑤報酬の労働対償性
⑥事業者性の有無(機械や器具の負担関係,報酬の額など)
⑦専属性の程度
⑧公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無)

このうち,特に重要なのは①から③であり,
⑧は使用者が操作できる事項であるからさほど重視されません。

このような基準に基づき,近年の裁判例では,
大阪地判平成17年8月26日
東京簡裁平成20年7月8日
東京地裁平成22年3月9日など,
ホステスの「労働者」性を肯定するものが数多く出ています

このうち,東京地判平成22年3月9日では,
「ホステス一般について労働者といえるかどうかはともかく」
と一応前置きをした上で,
少なくとも本件のホステスについては,
「業務従事の指示等に対する諾否の自由がなく,
業務遂行上の指揮監督を受け」,
「勤務場所及び勤務時間について強い拘束を受け」,
「代替性の高い労務提供態様であるし」,
「報酬が純売上高と連動しているけれども,
一定程度の固定額が保障されていた」
ことからすると,
「その就業実態が使用従属関係の下における
労務の提供と評価できる」から,
労働基準法上の「労働者」に該当する,
と判断しました。

ホステス一般について判断している裁判例ではありませんが,
一般に,
①ホステスさんに接客サービスをしない自由があるとは考えにくく,
仕事依頼の許諾の自由があるものとはいえないし,
②接客サービスの提供内容も自ずと決まっており,
クラブ内において店側からその遂行を求められているものといえるし,
③勤務場所,勤務時間,勤務日が定められており,
遅刻・欠勤の場合にはペナルティが課せられることになっており,
拘束力を有しているなどの事情があるといえますから,
ホステスの多くは,法的に保護されるべき
「労働者」に当たる可能性が高いと考えられます。

そうなると,労働基準法の適用があるわけですが,
このままその内容について続けますと長くなってしまうので,
続きはまた次回にすることと致します。

ホステス・ホストの皆様も,
また,自分の契約形態では労働者には当たらないと考えておられる方も,
「労働者」性はあくまで実質をみて判断されますので,
ご自身の待遇面で納得いかないと感じる部分
労働基準法違反じゃないか?と感じる部分があれば,
一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

弁護士 伊倉 吉宣
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伊倉総合法律事務所
〒105-0001 東京都港区虎ノ門3丁目7番5号 虎ノ門Roots21ビル9階
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FAX:03-6432-4950
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従業員の休憩時間の取り扱い

未払い残業代請求に関するご相談において,
休憩時間に関するご質問,ご相談もかなり多いと言えます。

休憩時間として定められている時間でも,
その実態としては,
事務室内にいることを義務づけられたり,
携帯電話の所持を義務づけられたり,
その行動を厳しく管理され,
まともに休めたことがないなどといったような
休憩時間に関するご相談が寄せられることが多いです。

残業代の計算においては,
原則としては,
始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を引くことになりますが,
「実際は休憩など取れていない」
という労働者側の主張が強い場合があります。

このように,休憩時間の取り扱いは
未払い残業代請求においても,極めて重要な問題となっておりますので,
今回は,法律的に休憩時間がどのようにとらえられているのか,
という点について解説したいと思います。

まずは,休憩時間について,
労働基準法が定めている取り扱いについて
ご説明致します。

1 休憩時間の長さ

まず,労働基準法では,
1日の労働時間が6時間を超える場合には45分以上の,
8時間を超える場合には1時間以上の休憩時間を
労働時間の途中に与えること,
休憩時間は労働者の自由に利用させることを規定しています。

2 休憩時間の位置

休憩時間は,労働時間の途中に与えられなければなりません。
途中であればよく,どの時間に与えても構いませんし,
小刻みに分割しても構いません。

3 休憩時間の一斉付与

休憩時間は,事業場ごとに,
一斉に与えなければなりません。
ただし,労使協定があれば一斉に与えないという運用もできますので,
一斉休憩が難しい企業においては,異なる運用をしているところもあります。

4 休憩時間の自由利用

休憩時間といえるためには,後述するとおり,
労働者が労働から完全に解放されることを
保障されていなければなりません。
ですので,休憩時間中の外出も自由でなければならないのです。

5 未払い残業代請求における休憩時間

未払い残業代請求における労働時間の計算においては,
原則としては,
始業時間から終業時間までの時間から
休憩時間を引くことになります。

ただし,
具体的な休憩時間が,
労働時間から引いても良い,
法律上の「休憩時間」といえるかどうかが問題となります。

「休憩時間」とは,
労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいいます。

ですので,例え実際の業務をしていなかったとしても,
使用者の指揮命令の下に置かれている時間は休憩時間に当たらないと
評価される可能性があります。

休憩時間は,
労働契約,就業規則,労働協約等にどのように定められていたとしても,
その時間の実態が客観的にみて上記基準を満たすかどうか
によって定まるということです。

ですので,仮に特定の準備行為等を
労働時間外(休憩中)に行う旨定められていたとしても,
当該行為が業務として義務付けられ,
またはこれを余儀なくされているという状況がある場合には,
その時間は休憩時間ではなく,
労働時間と評価される可能性があります。

また,いわゆる「手待ち時間」,
つまり,作業に従事する状況に至った場合には
直ちに就労することができるよう待機している時間についても,
問題となることが多いです。
労働しているとまではいえないものの,
自由ではない時間というイメージで,
例えば,
電話当番に従事している者の電話がかかって来ない時間等
がこれにあたります。

このような手待ち時間中は
使用者の指揮命令下にあると評価され,
労働時間の一部として位置づけられる可能性があるでしょう。

以上のように,休憩時間かどうかは,
会社の定めるところによるものではなく,
その実態をみて,客観的に,
指揮命令下にあるかどうか等の基準によって判断されます。

ですので,
皆様が労働時間を計算してみるときには,
会社側から言われている休憩時間が,
本当に法律的にも休憩時間といえるのかどうか,
慎重に考える必要があるでしょう。

伊倉 吉宣
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