従業員の賃金減額,降格の適法性

今回は,
従業員の賃金の減額や降格の適法性について,
ご説明致します。

未払い残業代請求について無料相談を受けていると,
付随的に,解雇の問題や,
パワハラ,セクハラ,賃金減額,降格等,
様々な問題が発生していることが多いです。

その中でご相談を受けることが多い,
従業員の賃金減額や降格の問題について,
以下でご説明致します。

1 合意による賃金減額

まずは,会社が従業員との合意により減額する場合は,
特に違法ではなく,
当該減額は有効となる可能性が高いでしょう。

会社側からすれば,
合意による減額の場合でも,
明確に合意書等の書面を残しておいた方がよいでしょう。

従業員側からすれば,
会社に圧力等によって減額の合意書に捺印する
ようなことのないよう注意が必要です。
仮に,合意書等の書面に捺印してしまったとしても,
労使間の力関係から,真意に署名捺印したものではないとして,
争うことができる場合もあります。

2 人事権による賃金減額

会社側としては、
各従業員から同意を取れればベストですが,
当然同意を取れない場合もあります。
それでも,人事考課の結果や経営状況等により,
各従業員の給料を減額したいと考える場面が多々あると思います。
そのような場合,会社側は一方的に減額できないのでしょうか。

この点,会社側からすれば,
その就業規則や賃金規程その他労働契約の中に,
給与の増減がありうること,その基準等に関する規定を設けておけば,
当該各規定が不合理でない限り,
それに基づく減給は,適法かつ有効なものとなる可能性があります。

ただ,当該規定の内容が合理的であっても,
具体的なの運用(人事評価等)が不合理な場合には,
当該減額措置が違法,無効と判断される可能性もあるので注意が必要です。

3 降格による賃金減額

「降格」には,
①職位や役職を引き下げるもの,
②職能資格制度上の資格等級を引き下げるもの,
③職務等級制度上の等級を引き下げるもの,
④懲戒処分によるもの
がありますので,それぞれにつきご説明致します。

(1)職位や役職を引き下げるもの

職位や役職を引き下げるものの例としては,
業績不振や業務怠慢等を理由に,
部長を課長に降格させたり,
主任を平社員に降格させたりすることです。

この降格に関しては,
会社は,人事権の行使として,
広範な裁量を有すると考えられておりますが,
裁量権の逸脱,濫用に当たると評価される場合には,
無効と判断される場合もあります。

裁量権の逸脱,濫用に当たるかどうかの主な判断基準は
以下のとおりです。
①業務上,組織上の必要性の有無,程度,
②能力・適性の欠如等,従業員側の問題の有無,程度
③従業員側が受ける不利益の内容,程度
④その他諸般の事情

ですので,
その降格処分に賃金の減額が伴う場合には,
賃金の減額の程度が上記③の一要素として考慮され,
当該降格に伴う賃金減額措置が,
適法かどうか,有効かどうかが判断されることになります。

(2)職能資格制度上の資格等級を引き下げるもの

職能資格制度とは,業務遂行能力を資格や等級別にランク付けし,
各従業員をそこに格付けし,
賃金その他の各処遇の決定等を行う制度をいいます。

通常の職能資格制度は,
当該企業組織内での経験等の積み重ねによって,
職務遂行能力の到達の程度を評価するものですから,
その評価を引き下げる措置は,本来予定されていません。

そこで,職能資格制度上の資格等級を引き下げるためには,
その制度を定めた規則等において,
当該資格等級の引き下げがあること及びその基準が明記されている必要があります。
また,仮に当該資格等級の引き下げが明記されていたとしても,
著しく不合理な評価による引き下げは,
人事権の濫用として無効になる可能性があることにも注意が必要です。

(3)職務等級制度上の等級を引き下げるもの

職務等級制度とは,
企業組織内の各職務を,職務の価値によって各等級に分類し,
その等級ごとに賃金額その他の処遇を決定する制度をいいます。

当該制度は,職能資格制度と異なり,
経験,能力,年齢等の属人的要素により決定するのではなく,
どの職務を行っているかという点を基準に区分がなされます。

そのような違いもあり,
この降格に関しては,(1)と同様に,
人事権の行使として,会社側に広範な裁量があり,
裁量権の逸脱,濫用に当たると評価されなければ,
(賃料の減額の程度も一要素)
当該降格は,適法,有効となると解釈されております。

(4)懲戒処分によるもの

この点は,懲戒処分の法理が適用されるので,
また別の機会にご説明させていただきます。

4 終わりに

いずれにしても,
会社側が従業員を降格させたり,
その賃金を減額したりするには,
法律的なハードルがあることをご認識いただき,
個々の事案に関しては,
専門の弁護士にご相談いただければ幸いです。

伊倉 吉宣
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伊倉総合法律事務所
〒105-0001 東京都港区虎ノ門3丁目7番5号 虎ノ門Roots21ビル9階
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法定内残業の取り扱い ~残業代請求

今回は,
未払い残業代請求の際に問題となる,
法定内残業の割増賃金の取扱い
についてご説明致します。

会社は,その労働契約,就業規則等の中で,
会社が定める労働時間,
つまり,始業時間から就業時間までの時間から休憩時間を除いた時間,
を定めることが可能です。
この時間を,所定労働時間といいます。

所定労働時間につき,
8時間で設定している会社が多い中で,
7時間や,7.5時間と設定している会社も散見されます。

このような場合には,
所定労働時間を超え,法定労働時間内の労働をする,
法定内残業(所定外労働)が発生する可能性があります。

例えば,
所定労働時間が,
始業時間:9時,就業時間17時,休憩1時間=7時間
の会社において,
20時まで残業した場合,
17時から18時までの1時間が法定内残業で,
18時から20時までの2時間が法定外残業ということになります。

この場合,18時から20時までの法定外残業については,
通常どおり,基礎時給の1.25倍の割増賃金が支払われますが,
17時から18時までの1時間分の賃金はどのようになるのでしょうか。

法定内残業分の賃金の支払いに関しては,
就業規則,賃金規程等の規定に特別の規定がない限り,
基礎時給の1.0倍を支払うという処理になると考えられます。

つまり,上記例の場合,
17時から18時までの法定内残業分として基礎時給の1.0倍,
18時から20時までの法定内残業分として基礎時給の1.25倍,
を払わなければならないということになります。

伊倉 吉宣
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